Development of a Phonological Process Analysis Tool Adjunctively Administered with the Japanese Articulation Test (Second Edition) PDF

Title Development of a Phonological Process Analysis Tool Adjunctively Administered with the Japanese Articulation Test (Second Edition)
Author Norimune Kawai
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348 音声言語医学 音声言語医学 52:348 ─ 359,2011  原  著 新版 構音検査と併用可能な音韻プロセス分析ツールの開発 川合 紀宗1,2) 要 約:新版 構音検査では,「音声学的視点からのまとめ」として,構音位置や構音様式, 有声・無声などの気づきなど,音韻プロセスの側面について自由記述により記録することがで きる.ただし,一定の知識がなければこれらの詳細な分析は不可能である.そこで,容易に音 韻プロセスの分析を行うことができ,新版 構音検査と併用可能な音韻プロセス分析ツールの 試案を作成したので本稿で紹介する.音韻プロセスについては,まず大分類として,15 の音 韻プロセ...


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Accelerat ing t he world's research.

Development of a Phonological Process Analysis Tool Adjunctively Administered with the Japanese Articulation Tes... Norimune Kawai Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics

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音声言語医学

348

音声言語医学 52:348 ─ 359,2011 

原  著

新版 構音検査と併用可能な音韻プロセス分析ツールの開発 川合 紀宗1,2) 要 約:新版 構音検査では, 「音声学的視点からのまとめ」として,構音位置や構音様式, 有声・無声などの気づきなど,音韻プロセスの側面について自由記述により記録することがで きる.ただし,一定の知識がなければこれらの詳細な分析は不可能である.そこで,容易に音 韻プロセスの分析を行うことができ,新版 構音検査と併用可能な音韻プロセス分析ツールの 試案を作成したので本稿で紹介する.音韻プロセスについては,まず大分類として,15 の音 韻プロセスを語全体プロセスと文節音変化プロセスの 2 種類に分け,その下位項目となる中分 類として,語全体プロセスには省略プロセスを,文節音変化プロセスには音声化プロセス,構 音点および構音様式プロセス,鼻音化プロセスを設定した.現段階では標準化されていないた め,音韻プロセスの出現率しか算出されない.今後はデータ収集を行い,年齢と音韻プロセス の種類・数との関係を明らかにし,標準化を目指すとともに,数量的な分析だけでなく,質的 な分析も容易に行えるよう,改良を実施したい. 索引用語:構音障害,音韻障害,新版 構音検査,音韻プロセス

Development of a Phonological Process Analysis Tool Adjunctively Administered with the Japanese Articulation Test (Second Edition) Norimune Kawai1,2) Abstract: The Japanese Articulation Test (second edition) enables us to analyze several aspects of phonological processes such as place, manner, and voicing/non-voicing of consonants via free descriptions by speech therapists in the "Summary of Phonetic Viewpoint" section. However, it is difficult to conduct detailed analyses of phonological processes without certain knowledge of phonological disorders and processes. In this paper, we introduce a tentative version of the Phonological Process Analysis Tool which can be adjunctively administered with the Japanese Articulation Test (second edition). This tool enables even novice speech therapists to correctly analyze phonological processes by checking against the list on the phonological processes record form. Fifteen phonological processes were chosen as the target phoneme processes for this tool. They were first divided into two broad categories, which were the whole-word and the segment change 広島大学大学院教育学研究科附属特別支援教育実践センター1):〒739-8524 広島県東広島市鏡山 1-1-1 Department of Special Education and Communication Disorders, University of Nebraska-Lincoln2): 318 Barkley Memorial Center, PO Box 830738, Lincoln, NE 68583-0738 USA The Center for Special Education Research and Practice, Graduate School of Education, Hiroshima University: 1-1-1

1)

Kagamiyama Higashi-Hiroshima, Hiroshima 739-8524, Japan Department of Special Education and Communication Disorders, University of Nebraska-Lincoln: 318 Barkley Memorial Center,

2)

PO Box 830738, Lincoln, NE 68583-0738 USA 2011 年 3 月 16 日受稿 2011 年 6 月 9 日受理

Vol. 52 No. 4, 2011. 10

349

processes. The reduction process was set as the sub-category of the whole-word process; and the voicing, place and manner, and nasalization processes were set as the sub-categories of the segment change process. At the present stage, only the percentage of the phonological process is calculated via the Phonological Process Analysis Tool because it is not yet standardized. As the next step, the relations among age and types and number of phoneme processes should be clarified via data collection with the aim of arriving at standardization in the future. Key words: articulation disorders, phonological disorders, the Japanese Articulation Test (second edition), phonological processes ては解釈が共通している.従来の方法は,個々の誤り

はじめに

音について,置換,省略,歪みのどのタイプの誤りで

は,彼が唱えた自然音韻論のなかで,言

あるかを分析した.さらに,語頭,語中,語尾のよう

語の話者が後天的に獲得する知識としての有標な「音

に,誤り音の位置についても分析した.たとえば従来

韻規則」に加え,規則を学習する以前に起こる無標で

の方法では,/sakana/ が /takana/ と発音されている

普遍的な音韻の自然な変化を「音韻プロセス(音韻過

場合,語頭の /s/ が /t/ に置換している,といった形

程) 」と定義した.Stampe

の自然音韻論は,従来

で分析する.これらは確かに重要な情報だが,特に発

の生成音韻理論ではほとんど取り上げられなかった言

音の不明瞭な幼い子どもの場合,その誤り方がまちま

語習得過程を視野に入れ,そもそも人間には,どの言

ちで,特に複数の誤り音がある場合,それらに一定の

語においても有標性の高い音を有標性の低い音へと変

誤りパターンがないように感じられる場合がある16).

化 さ せ る 傾 向 が あ る と し た. し か し そ の 後,

もし,すでに出版されている構音検査の補助的な役割

Drachmann が,幼児の音韻習得においては有標か

を行う音韻プロセス分析ツールがあれば,1 つの構音

ら無標への変化が認められたが,成人の音韻文法にお

検査を実施することで,子どもの発音の誤りを多角的

いては無標から有標への変化が認められるといった食

に分析することが可能となり,より効果的かつ効率的

い違いを指摘するなど,この理論の根幹を揺るがす事

な臨床を行うためにも役立つと考えられる.たとえば

実が指摘され,言語学や音声学において,自然音韻論

従来の方法では,/k/ を /t/ に,/g/ を /d/ と発音す

は衰退の一途をたどった .ところがこの概念は,言

る子どもに対しては,/k/ と /g/ の臨床計画をそれぞ

語学や音声学から言語病理学の分野へと広がり, 構音・

れ別に立案することが多いが,音韻プロセスの概念で

音韻障害の臨床へと応用されることとなった.その理

は,これらの誤りを「軟口蓋音の前方化」という同一

由は, 音韻プロセスを臨床に適用することによる効率・

の音韻プロセスとして捉えるため,効率的に構音の改

効果の高さである

善を目指すことができる.

Stampe

1-3)

1,2)

4)

5)

.たとえば Klein

6-12)

10)

は,複数の

構音の誤りのある子どもたちを 2 群に分け,一方には

米国では,構音検査を行う際,一般的に Goldman-

音韻アプローチを,他方には構音アプローチを適用し

Fristoe Test of Articulation 2nd edition17)(以 下

たところ,音韻アプローチを適用された子どもたちの

GFTA-2)を使用し,音韻プロセス分析を行う Khan-

ほうが,より正確な構音を,より少ないセッション数

Lewis Phonological Analysis 2nd edition18)(以 下

で習得したと報告している.しかし,臨床家が音韻ア

KLPA-2) を 併 用 す る.KLPA-218) は,GFTA-217) に

プローチの評価臨床技術を体得するには,複雑な音韻

登場する検査語の音韻プロセスを分析するための検査

プロセスを特定するなど,構音アプローチ以上に研鑽

用具であり,両者を併用することで,子どもの構音の

を積む必要があることや ,音韻障害の評価や臨床へ

誤りと音韻プロセスとを同時に分析することができ

の不慣れから,従来の構音障害の評価や臨床を選択し

る. 一方,日本では,新版 構音検査 7)のなかで,総

ている臨床家が多い10,13,14)との指摘がある.

まとめの一部として誤りのタイプを分析する.これは

10)

音韻プロセスの解釈は,研究者により異なるが ,

音韻プロセス分析と共通する部分だが,音韻プロセス

臨床場面では,個々の子音の誤りよりも,音類や音群,

の種類についての具体的な記述が少ないために,音韻

または構音位置や構音様式に認められる音の変化や誤

障害に一定の知識がある ST やことばの教室担当教員

りの規則性を分析し,アプローチするという点におい

以外には,音韻プロセスの種類やそれが起こる語内位

15)

音声言語医学

350

表 1 分析に用いられる音韻プロセスの一覧 大分類

中分類

語全体プロセス

小分類

省略プロセス

子音の省略 語の一部や音節の省略 子音調和・ 同化 特殊音節・子音結合の単純化 音声化プロセス 有声音化 無声音化 構音点および構音様式プロセス 前方化 後方化 破裂音化 摩擦音化/破擦音化 流音・摩擦音のわたり音化 硬口蓋音化 軟口蓋音化 鼻音化プロセス 鼻音化 非鼻音化

分節音変化プロセス

例 kani → ani suika → sui kutɕi → kuki deɴwa → dewa kiriɴ → ɡiriɴ ɡohan → kohan neko → neto naiteru → naikeru tsukue → tukue dʑu:su → ɕu:su terebi → tejebi binudo → bugoiʔu aɕi → aki rappa → nappa hasami → hasabi

置を詳細に分析することは困難である.そこで今回,

スを設定した.語全体プロセスには,転換プロセス (音

新版 構音検査

位転換)があるが24),新版 構音検査16)の総まとめに

19)

と併用可能な音韻プロセス分析ツー

ルを作成したので,その詳細について紹介する.

おいても音位転換の有無について記録する欄があるこ とから,本試案においては,このプロセスの分析につ

音韻プロセス分析ツールの作成過程

いては後述する形で簡略化させた.さらに小分類とし

音韻プロセス分析ツールの試案(以下本試案)の記

て,省略プロセスには,子音の省略,語の一部や音節

録用紙のフォーマットは,Khan-Lewis Phonological

の省略,子音調和・同化,特殊音節・子音結合の単純

Analysis (以下 KLPA)および KLPA-2

化の 4 つを,音声化プロセスには有声音化と無声音化

20)

18)

を参考に

して作成した.本試案で採用した音韻プロセスの数の

の 2 つを, 構音点および構音様式プロセスには前方化,

種類については,KLPA20)や KLPA-218)で採用されて

後方化,破裂音化,摩擦音化/破擦音化,流音・摩擦

いる音韻プロセスや Bernthal and Bankson

が紹介

音のわたり音化,硬口蓋音化,軟口蓋化の7つを,そ

している 14 の音韻プロセス,大澤

が使用した 13

して鼻音化プロセスには鼻音化,非鼻音化の 2 つを設

の音韻プロセス,岡崎・大澤・加藤

や岡崎・大澤・

定した.摩擦音化と破擦音化は本来異なる音韻プロセ

が使用した 14 の音韻プロセスを参考にした.

スだが,新版 構音検査16)では,咽頭摩擦音と破擦音

15)

加藤ら

22)

21)

23)

このように,研究者によって音韻プロセスの数が異な

を 1 まとまりにしていることから,本試案においても

ることも,自然音韻論の弱点であるが,本試案では,

検査者の混乱を避けるために 1 つのカテゴリーにまと

これらの文献で取り上げられている音韻プロセスの中

めた.

から共通性が高い音韻プロセスを採用した.

加えて,特異な構音操作の誤り16) である声門破裂

本試案を使用して詳細に分析する音韻プロセスの数

音化,側音化構音,歯間音化構音,それから本試案で

は 15 とした(表 1) .なお,これら 15 の音韻プロセ

は詳細な分析が困難な音位転換や音の付加について

スは,本試案の最下位項目である小分類項目として位

も,出現の有無をチェックできるようにした.

置づけた.15 の音韻プロセスは,まず大分類として,

本試案では,新版 構音検査16)で採用されている 50

語構造あるいは音節構造や語内の文節の対立を,縮小

の単語を分析の対象とした.複数の研究において,単

あるいは同化を通じて単純化する語全体プロセスと,

語の発音,連続発音,文章レベルの発音で,音韻プロ

音節の位置や語の位置に関係なく,特定の分節音ある

セスの出現頻度やその種類を比較したところ,音韻プ

いは分節音のタイプに文脈の条件に関係のない変化を

ロセスの出現頻度については,単語レベルよりも連続

もたらす文節音変化プロセス

の 2 つに分け,その

発音や文章レベルのほうが高かったものの,全般的な

下位項目となる中分類として,語全体プロセスには省

音韻プロセスのプロフィールについては,違いはほと

略プロセスを, 文節変化プロセスには音声化プロセス,

んど認められなかったと報告している25-28).よって,

構音点および構音様式プロセス,そして鼻音化プロセ

音韻プロセスの分析は,単語レベルにおける分析を実

21)

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351

施することで,その全般的な特徴をつかむことが十分

音韻プロセスごとに,そのプロセスが語頭,語中,語

可能と考えられる.

末のどこで出現したかについても容易に分析すること

音韻プロセス分析ツールの構成・内容・使用法

ができる. 「語全体プロセス」 と 「分節音変化プロセス」 の欄には, 「音の変化」欄に列挙されている音に出現

本試案は,計 6 ページからなる記録用紙で構成され

する可能性のある音韻プロセスが記載されている.こ

ている(資料 1) .最初のページ(ページ 1)は,被検

れにより,被検査者が産出した発音の誤りが,どの音

査者の氏名,性別,学校・園名,学年,検査年月日,

韻プロセスに該当するかを把握することができる.

生年月日,年齢,検査者氏名を左上の欄に記入する.

本試案の具体的な使用法について説明する.まず,

右上の欄には,被検査者の行動観察の記録や特記され

新版 構音検査7) の単語検査でチェックした誤り音を

た特異な構音操作の誤り,語全体プロセスの有無につ

本試案の記録用紙(資料のページ 2~6)に転記する.

いて書き込む.自由会話時における被検査者の構音の

たとえばもし被検査者が,単語検査の 3 つ目である

様子や口腔運動の様子,構音障害以外の障害がある可

/basu/ を /pasu/ と発音していた場合,新版 構音検

能性の有無など,検査者が気づいたことを記入する.

査16) の記録用紙には,すでに /b/ に下線を引き,そ

氏名等を記入する欄および行動観察の記録欄の下にあ

の下線の下部に /p/ と書かれてあるはずである.こ

る表は,新版 構音検査16) で用いられている 50 語の

の場合,本試案のページ 2 の「単語」/basu/ の右「音

音韻プロセスの出現数および出現率を算出する集計

の変化」の項目に /b/ が書かれている箇所があるが,

ページである.ページ 2~6 は,新版 構音検査



ここを○で囲む.それから,/b/ の箇所を右に見てゆ

用いられている単語に出現する可能性のある音韻プロ

き,新版 構音検査7) で認められた誤り音と同じ誤り

セスをリストアップした表である.たとえば最初に登

パターンが記載されている箇所を探す.この場合,

16)

場する単語 /paɴda/ の場合,もし被検査者が /aɴda/

「b ⇒ p」が該当するのでこの箇所を○で囲む.そう

と発音した場合, 「子音の省略」の「p ⇒φ」が該当し,

すると,誤りパターンは,音韻プロセスの「有声音化」

/paɴɡa/ と発音した場合は「軟口蓋化」の「d ⇒ ɡ, k」

に該当することがわかる.なかには 1 つの誤り音が,

が該当し,/da/ と発音した場合は「語の一部や音節

複数の音韻プロセスに該当する場合がある. この場合,

の省略」の「paɴ ⇒φ」が該当するといった具合であ

該当するものすべてを○で囲む.次に,ページごとに,

る.このように,新版 構音検査16)で用いられている

チェックを入れた箇所の数を,音韻プロセスの小分類

単語に出現する可能性のある音韻プロセス(表 1)が,

別,それから語頭,語中,語末別に集計する.最後に,

単語やその語内位置ごとにリストアップされている.

ページ 2~6 の小計の欄に記載した音韻プロセスの出

なお,新版 構音検査

現数を,ページ 1 に転記する.集計結果から音韻プロ

16)

の検査シート(記録紙)には,

一部を除き,構音検査法(改訂版) と同様の音声記

セスごとの出現率を算出し,どの音韻プロセスが頻繁

号を用いた「旧表記」と,現在の一般的な音声学の教

に出現しているかを分析する.

29)

科書で用いられる音声記号を用いた「新表記」の 2 種

なお,以上に述べた 15 の音韻プロセスに加え,特

類があるが,本試案でも,これら両方の表記バージョ

異な構音操作の誤り16) である声門破裂音化や側音化

ンを作成した.本稿では, 「新表記」バージョンのみ

構音,歯間音化構音,それから語全体プロセスの音位

を資料 1 として掲載した.

転換や音の付加については,本試案ページ 1 の右上部

上部左端から順に, 「単語」 , 「音の変化」 , 「語全体

に,チェックリストを設けた.それぞれに該当するプ

プロセス」 , 「文節音変化プロセス」と項目が並んでい

ロセスが認められた場合はチェック欄に「+」を,認

る. 「単語」は,新版 構音検査

められない場合は「−」を記入する.それ以外の特徴

16)

で使用されている

単語の音韻記号を,新版 構音検査

16)

と同様の順番で

並べたもので, 1 ページにつき 10 語ずつ掲載している. 「音の変化」の欄には,1 単語につきその単語を構成 する音韻記号が複数列挙されている.これにより,そ

やプロセスが観察された場合は,行動観察の記録欄に 自由記述で記入する.

音韻プロセス分析ツールの使用上の注意点

れぞれの音や音節ごとに,容易に音韻プロセスを分析

発音の発達は単純ではない.発音とは,恣意的で偶

することが可能になる.また,音韻記号は,語頭また

発的なルールに基づく,これまた同様に恣意的で偶発

は語頭を含む音や音節,語中の音や音節,語末または

的な音あるいは音群の集合体であり,子どもはこれら

語末を含む音や音節に区分けした.こうすることで,

のルールを同じ順番や方法で学習するとは限らな

音声言語医学

352

い30).そのため,発音の評価における分析には長い時

もの場合,後続母音の影響を受けて前舌母音の場合は

間を要することがある.また,発音の評価は連続線上

「前方化」で,中・後舌母音の場合は「後方化」のプ

にあり,子どもによってどの段階の分析が必要かが異

ロセスが認められる.このように,単語間における音

なる場合がある.たとえば基礎的なレベルでは,単音

韻プロセス出現条件の共通性を見出したり,子どもの

や単語の中に含まれる発音の誤りを数え,それが標準

生育歴や経験,生活環境,言語環境を加味することで,

と比較して, 発音の発達に遅れがあるかどうかを見る.

より正確に子どもの課題を把握し,より効果的な臨床

一方,最も複雑なレベルでは,会話中の子どもの発音

指針を立案することが可能になる.

の生成的分析を行うことで,その子どもの発音の発達

今後の課題

の様相について,幅広く分析する.子どもの発音アセ スメントは,これら両極端のどこかの部分を分析する ことになる.本試案は,新版 構音検査

今回は,音韻プロセス分析ツールの試案を作成し,

の単語検査

その中身について紹介した.現段階ではあくまでも試

を基に,音韻プロセスを分析するツールだが,子ども

案のため,いくつか改善すべき課題がある.まず,標

によっては単語レベルでは音韻プロセスは認められな

準化に向けての作業の実施である.現段階では,本試

いものの,文章レベルや会話レベルで音韻プロセスが

案は標準化されていないため,音韻プロセスの種類や

認められる場合がある.新版 構音検査16)における会

その数,出現率しか算出されない.今後,データ収集

話の観察や文章検査において,子どもの構音だけでな

を実施し,年齢と音韻プロセスの種類・数との関係を

く,音韻プロセスの有無についても注意深く観察する

明らかにしたい.

16)

必要がある.また,/koppu/ を /toppu/ と発音する子

次に,採用する音韻プロセスのさらなる精選を行う

どもの場合,通常は音韻プロセスの「前方化」となる

必要がある.1 つの誤り音が複数の音韻プロセスに該

が, 子 ど も に よ っ て は 幼 少 期 の 誤 学 習 に よ っ て /

当する場合は,アセスメント結果を混乱させる可能性

toppu/ が正しい発音であると勘違いしている場合も

がある.たとえば「非鼻音化」は多くの場合,同時に

の音節検査や

「破裂音化」としても集計できる.この場合,現段階

音検査を通じて子どもの誤り音に対する被刺激性の有

では両者を○で囲むこととしているが,はたしてそれ

無について確認しておくほか,単語検査終了後に,発

が被検査者の症状を正確に把握する結果となるかどう

音の誤学習が疑われる単語に対する被刺激性を併せて

かを検討する必要がある.また,出現率が低いと考え

確認しておくとよい.

られる音韻プロセスについては,KLPA-218)のように,

ある.これについては新版 構音検査

16)

一方,本試案は各音韻プロセスに対する量的なデー

「その他」としてまとめて記録するほうが,音韻プロ

タの収集を容易にするツールだが,検査者はその量的

セスを効率良く評価できるかもしれない.なお,旧

なデータと同時に質的なデータも収集することを忘れ

KLPA20)では 16 の音韻プロセスを分析していたのに

てはならない.たとえば新版 構音検査16)において単

対し,KLPA-218)では分析すべき音韻プロセスの数は,

語検査のまとめをする際,誤り方の一貫性の有無を

「その他」と「母音の変化」を加えると 12 である.

チェックするなど,音の機能的側面についての評価を

また,音韻プロセスを音素単位で考えるべきか,あ

行うが,本試案についても,どの条件下において特定

るいはモーラ単位で考えるべきかについても検討しな

の音韻プロセスが認められるかを把握する必要があ

ければならない.日本人幼児の場合,かな文字獲得以

る.具体的には,/poketto/ を /ketto/ と発音する子

前にモーラの分節化を行っていることから31,32),モー

どもがいるとする.この場合,本試案による音韻プロ

ラを最小単位とする分析が適切と考えられるが,モー

セスとしては「語の一部や音節の省略」となるが,他

ラを最小単位として音韻プロセスを分析しようとする

の 単 語 に お け る 誤 り 方 を 見 て み る と /basu/ や

と,たとえば省略プロセスを構音点および構音様式プ

/mame/ は 正 し く 言 え て い る が,/megane/ は

ロセスと捉える可能性があるなどの課題がある. 一方,

/gane/, /hasami/ は /sami/ と言っている.この場合,

今回のように音素を最小単位として考えると,語末子

2 モーラの場合は音韻プロセスが認められないが,3

音は,/ɴ/ 以外は新版 構音検査16) 上に存在しないこ

モーラの単語になると「語の一部や音節の省略」が認

とになる.この点をどう考えるべきかについても検討

められることがわかる.また別の例として,/mikan/

しなければならない.

や /neko/ は 正 音 だ が,/poketto/ を /potekko/, /taiko/ を /kaiko/,/toke:/ を /kote:/ と発音する子ど

Vol. 52 No. 4, 2011. 10

353

謝辞 音韻プロセス分析ツールの作成にあたり,University

18)Khan LML and Lewis NP: KLPA-2: Khan-Lewis

of Nebraska-Lincoln の Dr. John Bernthal から多くの示唆を得

Phonological Analysis, 2nd ed, American Guidance Service, Circle Pines, MN, 2002.

た.ここに記して感謝の意を表する.

19)構音臨床研究会編:新版 構音検査,千葉テストセンター, 千葉,2010.

文   献 1)Stampe D: The acquisition of phonetic representation. Paper presented at the 5th regional meeting of the Chicago Linguistic Society, Chicago, IL, 1969. 2)Stampe D: A Dissertation on Natural Phonology, Garland, New York, 1979. 3)外池滋生:自然音韻論とはなにか.月刊言語,5:75-81, 1976. 4)Drachmann G: Child language and language change: A conjecture and some refutations. Recent Developments in Historical Phonology (edited by Fisiak J), Mouton, The Hague, Netherlands, pp 123-144, 1978. 5)栗栖和孝:自然音韻論.音韻理論ハンドブック(西原哲雄, 他編),英宝社,東京,35-47 頁,2005. 6)Dunn C and Barron C: A treatment program for disordered phonology: Phonetic and linguistic considerations. Lang Speech Hear Serv Sch, 13: 100-109, 1982. 7)Hodson B and Paden E: Targeting Intelligible Speech, 2nd ed, Pro-Ed, Austin, TX, 1991. 8)Ingram D: Phonological Disability in Children. Elsevier, New York, 1976. 9)Khan LML and Lewis NP: A practical guide to phonological assessment and the development of treatment goals. Communicative Disorders, 9: 51-65, 1984. 10)Klein ES: Phonological processes and conventional articulation test: Considerations for analysis.

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